幸せなキスをして終了 Ver.2

ダイアリーからブログに引っ越したつもり アニゲと音楽のこととか

【ネタバレ有】リズと青い鳥 感想その2(清書)

ネタバレ有なので、

劇場に観に行ってから読んでくださいね。

 

リズと青い鳥】を観る上でのオススメ関連作品ガイドも書いてます。

良かったらこちらもどうぞ。

osyamannbe.hateblo.jp

 

 

 

 

 

 

liz-bluebird.com

 

感想のまとめにトライします。

あらすじとかは特に書かないんで公式サイト読んでください。

 

■「学校」という閉じた世界からの「脱却」の物語。

主人公のふたり、鎧塚みぞれと傘木希美は高校生・吹奏楽部という現在に

とらわれた日々を過ごしています。

将来について漠然とした考えのまま

進路問題や友人関係に悩む(もしくは考えていない)普通の高校生です。

 

物語はみぞれ一人が希美を待ち続けてから二人で登校するシーンで始まり、

 二人が下校するシーンで終わります。

劇中では、アバンとラスト以外に

学校の外に二人が出ていることはありません。*1

 

パンフレットでも触れられていましたが、

映画での「学校」は劇中劇【リズ】における「鳥籠」の

比喩として【執拗に】校舎内のみの情景が映し出されます。

頭と終わりを除けば、渡り廊下をみぞれが歩くところと

とあるモブ部員二人が校舎外(敷地内ですが)

で演奏しているカットが挿入されるのみの筈です。

(このモブ部員の演奏がとんでもない爆弾という話なんですが)

 

お祭り、プールといった夏の定番イベントを行うという

発言はありますが、それらは予想外にブツ切りになって

一切語られなかったり、結果が写真で伝えられるのみです。

映像技術には詳しくないですが、

おそらくはかなりイレギュラーな手順をとってまで

とことん二人は「鳥籠」の中の存在として描写されます。

 

監督の山田尚子は過去作品においても

学校および、それにまつわる固定された人間関係

との脱却について描いてきました。

「映画・けいおん!」「たまこラブストーリー」などで顕著だと思います。

 

老害オタクな人によっては、おそらくは

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー

少女革命ウテナ

といった「閉鎖モラトリアム世界」からの脱却を描いた作品に

近いところがあるな、と感じられることでしょう。

僕はすごくうる星BDを思い出しました。

 

徹底した屋内の閉塞した情景だけを描き続けることで、*2

ラストの互いの立ち位置と将来を見据えた上での下校シーンでの解放感が

感慨深いものになる面白い表現だと思いました。

特別どこか別世界に連れていかれていたわけではないのに、

やっと元の世界に戻ってこれたような…そんな気分でした。

 

■ふたりの立ち位置の変化

冒頭からタイトルが出るまでのシークエンスは

恐らくハイライトの演奏シーン、理科室でのハグと並んで

鑑賞者の記憶に強く残るシーンとなるでしょう。

 

親友(ほんとぉ?)の登校を待ち続けるみぞれ。

通称「山田足」と呼ばれる「足の動き」を執拗に捉える

レイアウトが狂気じみています。

希美がやってくると、二人は部活の朝練に向かうべく

校内に入っていきます。

 

ここからの描写が非常に素晴らしいと思っていまして、

「ふたりの違うところ」

「ふたりの一緒なところ」

を執拗に交互に描いていきます。

 

ロッカーの開け方、上靴の下ろし方。

一人は朗らかに、堂々と。

一人は静かに、しずしずと。

 

曲がり角を越える際に一人がふいに触った角を、

もう一人は「ねっとり」「じっくり」触りながらゆっくり追いかける。

 

一人がさっと水タンクから水を飲むと、

さりげなく同じように水を飲んでいく。

 

歩き方も一人は快活に、

もう一人は内気に。

 

校舎に入ってからは本当に全くセリフがありませんが、

二人がどんな人間か、そして二人がどういう関係かがヒシヒシと伝わってきます。

 

先に進んでいく希美を、みぞれはずっと見上げながら階段を上ります。

希美は先行し、上からみぞれを見おろす。

みぞれは後ろから追い、下から希美を見上げる。

それがお互いに当然であるかのように。

 

しかし、物語の佳境を越え、

互いの感情を不器用に伝え合った後には、

二人は逆の立場で学校外の階段を下っていきます。

 

希美は歩みを止めて、みぞれを見上げます。

みぞれは階段の上からまっすぐに希美を見つめます。

それぞれが視点と高さを逆にして。

冒頭や、劇中にあった無垢さと曇りは二人から消えています。

真摯に、お互いの心を見つめるように、少ない言葉を交わして、

二人はそれぞれの未来に向かって下校していきます。

「ハッピー・アイスクリーム!」のあとの

みぞれの笑顔、あそこで何人が救われたでしょう。

 

■感情移入の絶妙なスライド

冒頭から最後まで、鎧塚みぞれの描写は、とにかく儚く、可憐です。

個人的な感想としては、おそらくキャラデザ担当の

西屋太志による美少女キャラクターとして最高峰ではないでしょうか。

 

前述のように、前半ではみぞれの儚さがこれでもかと

庇護欲をそそるようにスクリーン全体に突き付けられます。

「みぞれってば本当にかわいいなぁ」と思っていると、

中盤、進路関係で希美との関係に変化が訪れるようになってからは、

急に「傘木希美という人間のナマの感情」が

透明感のある絵柄で覆い隠せないほどに生々しく飛び出してきます。

 

恐らく、誰もがある程度の年齢になったときに必ず通る

「きっと何にもなれない自分」*3という瞬間が、

あの手この手で、何度も何度も、目の前に繰り広げられてきます。

 

友人だけが受け取った大学のパンフレットを。

廊下で講師に声を掛けた時の気のない返事を。

類まれな才能への嫉妬から友人を遠ざけてしまうことを。

鳥籠の外から聴こえる通じ合っている者同士の本気の演奏を。

気が付いたら違う人間関係で新しい世界に溶け込んでいる友人を。

回りが見えなくなっていることに慰めの言葉をかけられることを。

遥かな高みに飛び立とうとする青い鳥の奏でる音を。

オーボエ以外の音が聴こえなくなり視界が歪む瞬間を。

「圧倒されて集中できなくなっちゃいました~」

とか云う血も涙もない追い打ちを。*4

見せつけられます。

突き付けられます。

もういい。

やめてくれ。

勘弁してくれ。

 

スクリーンに向かって儚げな美少女たちの応援をしていたら、

「凡人である自分に気づく瞬間」の追体験をさせられていた…

気が付いたら傘木希美とか云う「よくできた凡人」に感情移入している。

そこにこの作品の一番の「毒」「呪い」が込められていると思いました。

 

終盤には、長廻しのカットで空を自由に舞う二羽の鳥を映しています。

どっちが「鳥」で、どっちが「リズ」だったんでしょうか。

そんなことは、もしかしたらどうでもいいことなのかもしれません。

あの「二羽の鳥」のように、二人は自らの道を選ぶことができたんですから。

 

 

■音響と環境音の妙手

こちらのインタビュー記事を見ましたが、

驚くことに、本作は「モノローグ」が無い作品なんですね。

むしろ「ユーフォ」はモノローグの多い作品の印象があったので、

これはかなり意外でした。

二人だけを主題にしたお話にした分、尺にも余裕があったんで

「絵で見せる芝居」にこだわれたんですかね。

 

映画イントロから、靴音に合わせてアナログだけれど

巧妙にエレクトロニクスされた背景音が流れてきて、

一気に最初からスクリーンに引き込まれます。

モデルになった高校に実際に環境音サンプリングをしに行って

音楽制作をしたそうですが、

劇中の透明感のある雰囲気に良く合っていると思いました。

 

オーボエパートの後輩、剣崎梨々花が出てくるところだけ、

環境音のような劇判から「ほっこり系」のアニメ感あるBGMが

流れてくれるのが安心感を際立ててくれます。

他のシーンでは常に緊張感が溢れているので、安心と共に

剣崎梨々花という人物(&ファゴットパート)の印象付けに一役買っています。

 

劇中通して、梨々花ちゃん達は本当に救いでした。*5

ダブルリードパート、ほんとにかわいい…かわいくない?

ファゴット二人がのぞみにフラれて「あちゃー」ってなってるところ…

 

オーボエ二重奏の練習曲のところも本当に良かったですね。

その後のイマイチ合わない窮屈な合奏シーンとの対比がきつくてきつくて…

 

■ここすきポイント羅列

西屋デザインで優子パイセンの美少女度がマジで大幅アップしてた。

やっぱリボンもうすこし小さいほうがいいよね・・・

髪も短めに切ってて超カワイイ!

 

久石奏は1カットだけ映ってた。

向こう向いてて顔や表情は判らず。ざんねん。

あの感じだとガヤでもたぶん喋ってないので、

CVは続編までお預けかな~ 悠木さんだと面白そうだと思っているのだけど。

 

優子はみぞれに甘く、夏紀は希美に甘い。

「希美が、受けるから」のあとのシャーペン「コツン」だけで

みぞれの依存心への心配と希美の無神経さにマジギレしているのが伝わってくる。

あのピアノを弾いてるシークエンスの緊張感のヤバさといったら…!

あのシーンだけでも鑑賞代モト取れたわ!ってなりましたね。

 

夏紀が自分に甘いのをわかっていて夏紀にだけみぞれとのことを相談する希美。

傘木、お前ホントそういうとこやぞ。

夏紀は昔から希美に憧れてたんで、キツく言ったりできないんだよなぁ。

 

塚本、瀧川、滝野…お前ら絶対みんなに

三馬鹿トリオとかボンクラーズとか言われてるぞ。

 

井上順奈ちゃん映ってるか捜せなかったわ…ショック。

最新短編集でけっこう出番あったから、またたくさん出てきてほしい…

大野さんは今年はハープなんやね。ホント便利キャラやな~

 

ハープ、コントラファゴット、ウインドマシーンと

ずいぶん贅沢な特殊楽器が沢山出てきている。

滝&橋本センセあたりのコネでレンタルしたのかなぁ。

 

あの音楽準備室?みたいなスペース、

毎年部内の上役の悪だくみスポットみたいになってんな

 

例のモブ二人(悪意ある表現)が外で演奏するシーン、

あれ絶対「やってみよう」って言ったの高坂麗奈だよな…

あの戦闘民族め…!

 

覚醒シーンの演奏のところで、

トランペットの渾身のファンファーレが最高って話はもっとやれ

みぞれの本気を信じてffでの音作りを練習し続け、

不意に訪れた覚醒で憶することなくドンピシャで入って来るだと…!

吉川&高坂(&一年小日向)のキズナちからを感じる…!

 

鑑賞者が「理科室のビーカーかシャーレか壁になりたい」と

狂ったことをのたまう終盤の理科室のシーン。

「聞いて」の一言でピントが二人にバシッと戻って来るのに感動。

みぞれの数々の「愛の告白」*6に対して、

「みぞれのオーボエが好き」としか言わない希美

傘木ィ"!!!

まぁ冷静になって考える&インタビュとかを拾ってみて

「嘘でもいいから"希美のフルートが好き"と言ってよ」

「あなたのオーボエが好き。だからもっと羽ばたいて」

という意味でのひとことなのかな、って思うと

凡人代表の希美としては精一杯のはなむけの言葉なのかなって、

そう考えて少しでもみぞれが報われてると信じたくなりました。

 

きっと二人は、進む道は違ってしまうけど本当の意味で

初めて「親友」になれたんだと思います。

OPの登校ではほぼ無言、ED前の下校では会話がたくさん。

二人の空への旅立ちに祝福あれ、ですね。

 

■評価まとめ

osyamannbe.hateblo.jp

こちらのエントリで僕は一度色々と死んでいるので

いまさら言うまでもないですが、

僕自身は本当に心から好きな作品で、

心の中に大切にしたい作品だな、と改めて思いました。

原作を読んでいた身としても、

「ここまで原作の生々しい感情を映像化できるのか…」

と感動することしきりです。

素晴らしい作品を、本当にありがとうございました。

 

「実写を超えた!」「アニメとか実写とかじゃない! これは"映画"だ!」

とか言ってる人もいるみたいですが、アニメですし、絵ですよ。

まぁそういうのは純粋ビョーキまっすぐ君だけでやってください。

 

 

ただ…まぁ売れる作品ではないんだろうなぁ。

はてな村でも評価散々っぽいし。

あっさりランク外までいっちゃったし…駄目みたいですね(諦観)

キンプリ公開時のプリズムヤクザの気持ちが痛いほど判りました。

 

「俺はユーフォヤクザでいく」

レディ, プレイヤー1も観ました。良かったです。 

 

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サントラをiTunesで買ったので、

吹奏楽曲「リズと青い鳥」の構造からくる

物語のとあるシーン(&とある戦闘民族女)の考察を思いつきました。

気が向いたらまた書きます。

*1:希美がベンチから街並みを見つめるカットがありますが、ここは北宇治高校(=モデルになった高校)の敷地内にあるベンチからの風景だと推測されています

*2:劇中、多分ですがすべての時計の針やカレンダーは詳細を出していません。日時も取っ払って現実感を喪失させています

*3:輪るピングドラムで何度憑き物落としをしても逃れられない呪いの感情

*4:黄前久美子はやっぱり黄前久美子だった。たった二つのセリフしかないのに失言する女。

*5:「鎧…じゃなくて剣崎です」は本人の持ちネタにして度々使っているんじゃないか説を提唱したい

*6:ユーフォ一期8話的な意味で